Adobe Commerce Cloud Service と Adobe Commerce Optimizerが発表されました

ラスベガスで開催されたAdobe Summitにおいて、AdobeからAdobe Commerceに関す以下の新しい2つの製品発表が行われました。
- Adobe Commerce Cloud Service
- Adobe Commerce Optimizer
今回はこの2つの新製品について、公表されている範囲でお伝えしたいと思います。
(現時点の発表資料からの要約なので、今後の改良で変わる可能性はあります)
Adobe Commerce Cloud Service
1つ目は、「Adobe Commerce Cloud Service(以下、Cloud Service)」です。
この製品は、既存の以下の製品に横並びする形で展開されるもので、2025年6月頃に提供が開始される予定です。
- Adobe Commerce Cloud (以下、Cloud)
- Adobe Commerce OnPremise(以下、OnPremise)
Cloud Service は、名前だけ聞くと既存の Cloud に似ているように感じます。
ですが、実態はかなり異なるようです。
構成を聞いた印象では、2015年まで提供されていた「Magento Go」に近い製品のように感じられます。
(構成上はもっとモダンで高機能ですが)
まずは既存の Cloudとの違いをご説明していきましょう。
Cloud Serviceとは
Cloud Serviceは、既存の Cloud とにていますが、以下の点で決定的に異なります。
- 土台となるAdobe Commerce部分はCloudより簡単に更新が可能
- 拡張機能の実装は全て、API Meshを土台としたApp Builder経由で行う
- ストアフロントの実装は完全にヘッドレス構成となり、エッジサーバー経由での配信となる
- トラフィックに応じたスケールアウト/アップについてはAdobeによる自動対応
どちらかといえば、既存のCloudやOnPremiseを以下の構成としたものに近いといえます。
- ストアフロントはヘッドレス実装(Cloudとは別で用意)
- 一切のエクステンション導入をしない(独自カスタマイズもサードパーティ製も)
- カスタマイズはAdobe App Builder経由で実施
- ストアフロントとAdobe Commerceとの疎通はApi Meshを利用
Cloud Serviceのメリットとは
さて、今までの Cloud や On Premise と比較して、Cloud Serviceはどんなメリットがあるでしょうか。
今考えられるものとしては以下のようなものが挙げられます。
- Adobe Commerce本体のアップデートに対して注意を払わなくて済む
- よりハイパフォーマンスなストアフロントが利用できる
- Adobe Commerceのインフラ性能について注意を払わなくて済む
- 生成AI(Adobe ExpressとFirefly)と連携した画像生成ができる
つまり、これまでのAdobe Commerceで悩ましいとされてきた領域について、運用側は意識を払う必要がなくなります。
ここは大きなメリットです。
現在のAdobe Commerce(Magento Open Sourceも)では、カスタマイズ部分(テーマ部分も含め)の調整とテストがアップデート時の負荷となっていて、セキュリティ対応の遅れにつながっているケースが少なくありません。
Cloud Serviceでは、Adobe Commerce本体に対するカスタマイズができなくなる代わりに、セキュリティアップデートやバージョンアップの負荷が大きく軽減されます。
また、新しいフロントエンドテーマや生成AIとの連携も要注目です。
これまでAdobe Commerceが後手に回ってきた部分について、一気にテコ入れをした形であると言えるでしょう。
新たにApp Builder Marketplaceが開始
Cloud ServiceではこれまでのAdobe Commerce用のエクステンションは利用できませんが、App Builderを用いた拡張・カスタマイズは可能です。
もちろん独自に連携するアプリケーションを開発することは可能ですが、サードパーティが提供するサービスとの接続Appなどを検索できるようにするための「App Builder Marketplace」が新たに開始されるようです。
Magento Goではテーマ以外のカスタマイズができませんでしたが、App Builder Marketplaceを通じてサードパーティが各社のサービスを乗り入れることができるため、他のSaaS ECプラットフォームのような拡張がしやすくなると予想されます。
Cloud Serviceのデメリットとは
反対にデメリットを考えてみましょう。
例えば以下のようなものが考えられます。
- Adobe Commerce本体に対するカスタマイズができない
- 既存のエクステンションの利用はできない
- 既存のストアフロントのカスタマイズノウハウが使えない
- App Builderに関する理解が必要になる
というものです。
かつて存在したMagento Goでは、デザイン調整以外のカスタマイズが全くできない作りだったので、それと比較するとApp Builderを介した連携による調整ができる点は大きく異なります。
ただし、日本語向けという観点ではおそらく色々と問題が出る可能性が高いため、すぐに日本国内向けのサイトで利用可能になるかどうかは未知数です。
Adobe Commerce Optimizer
2つめはAdobe Commerce Optimizer(以下、Optmizer)です。
この製品はAdobe Commerceそのものではなく、少し変わった立ち位置の製品です。
どう変わっているかと言うと、「Magento Open Sourceを原点とする製品ではない」というところです。
Cloud Serviceの場合は、ECとしてのコア機能はMagento Open Sourceの有償版であるAdobe Commerceの機能を利用します。
これに対して、Optmizerの場合はECとしてのコア機能は別のシステムでもよいことになっています。
それ以外の部分についてはCloud Serviceと同じ構成のようなので、Cloud ServiceのAPI Meshから上のレイヤーを活用したストアフロント構築サービスと言えるでしょう。
活用例はこれからでてくると思われますが、カートや購入手続きなどは別システムでも良い点に柔軟性があると思われます。
既存の製品の行方
今回の新製品発表で忘れてはならないポイントは「既存の製品の行方」です。
公式発表では、Cloud ServiceもOptmizerも「既存製品を置き換えるものではない」となっています。
特にCloud Serviceは既存のCloudやOnPremiseを廃止するのではなく、新しいラインナップとして展開が始まるものです。
Cloud Serviceの提供が開始されたからといって、CloudやOnPremiseが廃止されるということはありません。
(技術要素的にも土台になっているのは既存のAdobe Commerceである点は共通しています)
そのため既存のユーザーにとってはなにか選択を迫られるということはないようです。この点は安心して良いと思います。
ただ、製品の方向性としてはフロントエンド実装をCDNサービス上に配置して展開する方向になっていくように思われるため、CloudやOnPremiseの実装も段階的にフロントエンド実装を見直していく必要はあるかもしれません。