いよいよ消費税の10%への増税と軽減税率制度の導入が目前に迫ってきました。
これまで日本の消費税は一律の税率で運用されてきたため、多くのシステムで今回の決定がなされた段階から改修が行われてきたと思います。

さて、今回は増税直前ですが、Magentoでの税管理のおさらいをしたいと思います。

元々軽減税率に対応しているMagento

「Magentoは軽減税率に対応していますか?」というお問い合わせを3ヶ月ほど前からちらほらいただくようになりました。
もちろん答えは「Yes」です。

Magentoは元々北米やヨーロッパを主戦場としてきたシステムです。
日本が軽減税率に踏み切るずっと以前、2007年の時点で品目別税制に対応してきました。
どうしてこの機能が必要なのか、2010年頃に当時のコア開発者に訪ねたところ「アメリカでは郡や州のレベルで税率が違う。しかも毎年税率が変わるから、この機能がないと実用に耐えない。」という回答をもらったことを今でも覚えています。
実際、MagentoのパートナーにはTaxJarAvalaraといった税計算を専門に扱うベンダーがいることを考えると、北米やヨーロッパ市場では日本で導入される予定の制度よりも複雑な税制がずっと以前から運用されてきていることがわかるかと思います。
(最近ではその煩雑さゆえに、品目別税制をやめようではないか、という動きもあるようですが)

そういったこれまでの経緯もあり、Magentoで軽減税率の運用を開始するために必要な改修というのは、基本的には必要ありません。
適切に税率の設定を調整し、運用すればよい仕組みになっています。
(ただしそれが意外に面倒くさいのですが)

10月以降の税制で何を対処しなければならないか

軽減税率の導入で話題になっているのが、「どの商品は8%で、どの商品は10%なのか」という点です。
国税庁が公開している資料では、

  • 飲料食料品
  • 週2回以上発行される新聞

が対象とされています。
新聞は一旦脇に避けておいても良いとして、飲料食料品の中でも

  • 酒類
  • 外食
  • ケータリング

については10%であると示されています。
線引が曖昧なものとしては、

  • 一体資産

でしょう。
前述の国税庁の資料にあるような、おもちゃ付きのお菓子や、食器付きの紅茶などの場合は、商品によって税率が変わる可能性があります。
こういった税率の適用が曖昧な商材を扱われているサイトの場合は、Magento側の設定を細かく行うことで対処が可能です。

税率を変える前にやっておきたいこと

では、軽減税率を含めた2019年10月から始まる新消費税制に対応するためにはどうすればよいかをおさらいしていきましょう。
大きく分けて作業は3つのフェーズに分かれます。

  1. 現在の税設定の確認
  2. 増税までに行う設定変更
  3. 10月1日の設定変更

まずは1について説明していきましょう。

現在の税設定の確認

最初に現在の税設定の確認をしておきましょう。

店舗>設定>(セールス)>税

にある設定です。
ここで確認しておくべき設定は、

  • 配送料金の課税区分
  • デフォルトの商品課税区分
  • デフォルトの顧客課税区分
  • 税計算方法の基準
  • 税計算基準
  • カタログ価格

などでしょう。

「カタログ価格」が「税込」の場合

サイトによっては「カタログ価格」が「税込」になっている場合があると思います。
「税別」の場合は特に問題にはならないのですが、「税込」の場合は商品マスタ上の価格に消費税が含まれています。
当然ながら、税率が変わると商品価格が変わるため、価格データの更新が必要になります。

「税込」で運用されているサイトの場合は、Magentoに標準で用意されている商品データインポート機能やWeb API、あるいはサードパーティ製のエクステンションが提供する一括更新機能などを用いた商品価格の一斉更新が必要になります。
どういったスケジュールで更新していくか、計画を立てて行う必要があります。

配送料金や手数料を税込にしている場合

よくある運用として、配送料金や手数料だけが税込(あるいは課税しない設定)になっているサイトがあります。
これらのサイトの場合、今回の増税に伴う送料や手数料の金額変更がありえます。

商品価格や税率の設定に気を取られがちですが、こういった送料や手数料の設定も忘れずに確認しておくようにしましょう。

クーポンや送料無料の設定

他にもクーポンの設定や送料無料の閾値設定にも注意が必要です。
税込金額を起点に判断するルールを定義している場合は閾値の調整が必要になるので、これらも忘れずに税率変更の際に更新しましょう。

増税までに行う設定変更

現在の税設定やクーポン・送料無料の設定がどうなっているかを確認し終えたら、次は増税施行までの間にMagento上の税率や課税区分の設定変更を行います。
なお、軽減税率の対応が必要ないサイトの場合は読み飛ばしていただいて構いません。

税率の追加

軽減税率の対応が必要なサイトの場合は、現行の税率とは別に新しい税率の定義が必要です。

店舗>税範囲とレート

にアクセスすると、定義済みの税率が表示されます。

税率一覧

軽減税率対応を行う場合は、ここで以下のような定義を作成します。

新規税率

この例では日本全国を対象にした税率の定義をしています。
現時点では日本の消費税率は全国一律ですが、地域別に税率が変わるようになると、地域の数だけ税率定義が増えることになります。

課税区分の設定

次に確認するのは「課税区分の設定」です。
Magentoの上では、

  • 商品税区分
  • 顧客課税区分

の2つがありますが、どちらも単なるラベルでしかなく、これらを組み合わせた課税ルールこそが重要な設定になっています。

課税区分の追加

Magento1系では、どちらの課税区分も専用の管理画面が用意されていました。
Magento2系の場合は専用の管理画面が廃止され、課税区分の追加は課税方法の編集画面で行う形に改められています。

課税方法の編集機能は、

店舗>課税方法

にあります。
この機能にアクセスすると、既に登録されている課税方法(ルール)の一覧が表示されます。

課税方法一覧

軽減税率対応の課税ルールを作成する場合は「新規税算出の追加」でルールを追加します。

新規課税方法

「追加設定」をクリックすると、隠されている設定項目が出てきます。

追加設定

ここで「商品税区分」「顧客課税区分」に「新しい税クラスを追加」することで、課税区分を増やすことができます。
税率の定義と組み合わせて、軽減税率の定義を作りましょう。

「優先度」と「オフ小計のみ計算」とは?

この2つの設定は任意です。
「優先度」は同一の商品に対して複数の税率が適用される場合の優先度を指定します。
消費税の課税ではありえないものなので、指定しなくても構いません。

「オフ小計のみ計算」というのは少しややこしい概念です。
複数の税率が適用される際に、このチェックがついている場合は常に小計から税額を計算します。
チェックが付いていない場合は、適用済みの税率の上に更に税率が適用されていきます。
例えば、8%と10%の税率が両方適用される状況の場合、以下のような式になります。
(8%が先で、10%があとだとします)

(100 + 8) x (10 / 100) = 10.8

もし、更に優先度の低い税率がある場合は、10.8に対して同じ計算が適用されていきます。
日本では見かけない計算ですが、国によっては存在するのだ、ということを頭の片隅に覚えておいていただければと思います。

商品データの更新

税率や課税方法の定義ができたら、最後に商品データを更新します。
商品データには先程の課税区分が存在するので、適用したい税区分を指定しておきます。

こうすることによって、商品ごとに税率を適用できるようになり、この先さらに税率の適用が細分化されたとしても同じ要領で対処ができます。
(できれば増えてほしくないものですが)

税率の変更

さて、ここまで準備ができたら、最後は税率の適用開始当日に税率の設定を変えます。
税率の変更自体は管理画面からの作業でも数分で終わると思います。

注意してほしい点

Magentoの標準機能には税率の変更をタイマー予約する機能がない、という点に注意をしてください。
これは有償版であるMagento Commerceも同様です。
ただし、Magento Commerceには商品属性をスケジュール変更する機能が備わっています。
商品の課税区分を一斉に切り替えることで、税率変更を行うことは機能的には可能です。

税率自体を指定した時間に変更したい場合は、そういった機能のエクステンションを作成するか、Magentoの外からWeb APIなどで更新を行うほかないでしょう。

税率変更後の後始末

価格インデックスの更新

内税で運用しているサイトの場合、商品価格が増税に伴って変動します。
Magentoが用意している更新方法(管理画面、Web API、インポート機能)を使う場合は問題ありません。
ですが、データベースを直接更新するような運用をしているサイトの場合は価格インデックスの更新が不可欠です。

税率の変更後はできれば価格インデックスを再構築しておくほうが良いでしょう。

外部サービスに提供するデータの更新

レコメンデーションエンジンやGoogleショッピングなどの外部サービスにデータを提供しているサイトの場合、増税に伴うデータ更新が必要になる可能性があります。
扱う商品点数によってはこれらのサービスに提供するためのデータ生成に時間がかかる可能性があるため、余裕を持った作業計画を建てる必要があります。

まとめ

Magentoを使ったサイトの場合、軽減税率への対応は難しくありません。
むしろどのように商品データの定義や課税設定をするか、という方が重要です。

軽減税率の施行まであと1ヶ月。今のうちにお使いのサイトの設定を見直して、税率変更直前になってから慌てないようにしましょう。